抗生物質は「悪者退治のヒーロー」。でも、味方まで巻きこんでしまう
かぜをひいたとき、あの薬に助けられた
熱が出て、のどが痛くて、病院でお薬をもらった。
そんな経験は、だれにでもあると思います。
細菌による感染症のとき、大活躍するのが「抗生物質」です。
抗生物質は、悪い細菌をやっつけてくれる、とても大切な薬です。
昔はたくさんの人が、肺炎などの感染症で命を落としていました。
抗生物質が生まれてから、その多くが救えるようになったのです。
まさに、医学が生んだヒーローのような薬だといえます。
2018年に発表された総説(研究をまとめた論文)は、この抗生物質が腸の中でどんな働きをするのかを、くわしく説明しています。

ヒーローには、ひとつだけ苦手がある
とても頼りになる抗生物質ですが、じつは苦手なことがあります。
それは、「狙った悪者だけをピンポイントでやっつける」のが難しい、ということです。
わたしたちの腸の中には、100兆個ともいわれるたくさんの細菌がすんでいます。
その多くは、体のために働いてくれる「味方の菌」です。
ところが抗生物質は、悪い菌をやっつけるとき、近くにいる味方の菌まで一緒に減らしてしまうことがあります。
たとえるなら、街に現れた悪者を退治するために、まわりの家まで壊してしまうヒーローのようなものです。
悪者はいなくなっても、街のバランスはくずれてしまいます。
「腸内細菌の乱れ」には、名前がついている
腸の中の菌のバランスがくずれた状態を、専門用語で「ディスバイオーシス」と呼びます。
むずかしい言葉ですが、「腸内細菌のバランスがくずれた状態」とおぼえておけば大丈夫です。
菌の顔ぶれがかたよると、ふだんはおとなしくしている菌が増えすぎることがあります。
この論文では、こうした腸内細菌の乱れが、さまざまな体の不調と関係している可能性を紹介しています。
たとえば、炎症性腸疾患やアレルギー、自己免疫の病気など、原因のはっきりしない病気です。
こうした病気をもつ人や動物では、腸内細菌のバランスがくずれている例が多く報告されています。
腸の中の小さな変化が、体全体に影響することもあるのです。

抗生物質は「敵」ではない。使いどきが大事
ここで、大事なことをお伝えしておきます。
抗生物質は、決して悪い薬ではありません。
細菌の感染症のときには、なくてはならない薬です。
この総説がおもしろいのは、抗生物質が病気を「悪くする」場合と「よくする」場合の両方を紹介している点です。
腸内細菌の乱れが関わる病気では、抗生物質でかえって悪化することもあれば、うまく使うと改善することもある、と報告されています。
つまり大切なのは、抗生物質を「使うか・使わないか」ではなく、「必要なときに、必要なぶんだけ使う」ことです。
かぜのほとんどはウイルスが原因なので、抗生物質は効きません。
必要のないときにまで使うと、味方の菌をムダに減らしてしまうことになります。
ペットや家畜の世界でも、同じ考え方が広がっている
これは、人だけの話ではありません。
犬や猫、牛や豚などの動物にも、抗生物質は使われます。
そして動物の腸の中でも、同じように菌のバランスがくずれることがあります。
だからこそ最近は、できるだけ薬に頼りすぎない飼い方が注目されています。
必要なときにはきちんと使い、それ以外のときは腸内環境そのものを整えて元気を保つ、という考え方です。
競走馬のコンディション管理や、無投薬をめざす畜産の現場でも、この視点が大切にされています。

乱れたあとの「立て直し」も大切に
抗生物質を使ったあとは、腸内細菌の顔ぶれがしばらく乱れることがあります。
多くの場合、時間がたつと少しずつ元に近づいていくことも報告されています。
その立て直しを助けるために、ふだんから意識できることがあります。
いろいろな種類の食べもの(食物繊維など)をとって、多くの菌がすめる環境を保つことです。
生きた菌をとり入れる「腸活」も、その工夫のひとつだと考えられています。
菌がにぎやかにくらせる腸は、多少のことでは大きくくずれにくい、しなやかな腸だといえます。
ここは注意したいポイント
とはいえ、腸を整えれば抗生物質がいらなくなる、というわけではありません。
細菌の感染症のときは、自己判断で薬をやめたりせず、必ず医師の指示にしたがってください。
処方された抗生物質を、決められた期間きちんと飲みきることも大切です。
途中でやめると、かえって菌がしぶとくなってしまうことがあるからです。
ペットの体調が気になるときも、まずはかかりつけの獣医師に相談してください。
腸活は、あくまで日々の健康を支える土台づくりだと考えるのがよさそうです。
まとめ
抗生物質は、感染症から命を守ってくれる大切なヒーローです。
でも、悪い菌だけでなく、味方の菌まで巻きこんで減らしてしまうことがあります。
菌のバランスがくずれた状態を「ディスバイオーシス」と呼び、いろいろな不調との関わりが報告されています。
大事なのは、必要なときに正しく使い、そのあとの腸内環境を整えてあげることです。
クロノーブは、米ぬかを発酵させた生きた菌で、人にもペットにも「菌がにぎわう腸」を届けることを大切にしています。
出典
大坂利文「抗生物質による腸内細菌叢の変化と生体影響」腸内細菌学雑誌 第32巻3号 125–136頁、2018年