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腸内細菌と健康

2026.07.21

太りやすさは腸内細菌で決まる!?便移植でわかった衝撃の事実

信じられない話ですが、本当にあった話です。

ある患者さんが、便移植(健康な人の便を腸に移植する治療)を受けました。 その後、患者さんは急激に体重が増え始め、肥満になってしまったのです。

原因は、便を提供した人(ドナー)が、太り気味の体型だったことでした。

今回は、アメリカの医師らがまとめた総説論文をもとに、腸内細菌と肥満・メタボリックシンドロームの関係を紹介します。 「食べ過ぎれば太る、それだけの話でしょう?」と思うかもしれません。 しかし、話はそう単純ではないのです。

無菌のネズミは、太らない

肥満と腸内細菌の関係を語るうえで欠かせないのが、「無菌マウス」を使った実験です。

無菌マウスと、腸内細菌を持つ普通のマウスに、同じ高脂肪の食事を与えます。 すると、腸内細菌を持つ普通のマウスの方が、食べる量が少ないにもかかわらず、体につく脂肪の量が多くなったのです。

これには、主に2つの理由があると考えられています。

1つ目は、「Fiaf(ファイアフ)」と呼ばれるたんぱく質です。 このたんぱく質は、脂肪をため込む働きにブレーキをかける役割を持っています。 腸内細菌がいると、このFiafの働きが抑えられてしまい、結果として脂肪がたまりやすくなるのです。

2つ目は、「AMPK」という、脂肪を燃やすスイッチのような酵素です。 無菌マウスでは、このAMPKの働きが活発になっていて、脂肪がどんどん燃やされていました。 ところが腸内細菌がいると、AMPKの働きが抑えられ、脂肪が燃えにくくなってしまうのです。

たとえるなら、腸内細菌は、体という車の「アクセル」と「ブレーキ」の両方を握っている、隠れた運転手のようなものです。 腸内細菌の顔ぶれ次第で、同じ量のガソリン(食事)を入れても、燃費(太りやすさ)がまったく変わってしまうということです。

肥満は、腸内細菌によって”感染”する?

もっと衝撃的な実験結果もあります。

肥満のマウスの腸内細菌と、やせ型のマウスの腸内細菌を、それぞれ無菌マウスに移植する実験です。

結果は、はっきりと分かれました。 肥満マウスの腸内細菌を移植されたマウスは、体脂肪が増えていきました。 一方、やせ型マウスの腸内細菌を移植されたマウスは、体脂肪が増えにくいままでした。

同じマウス、同じ食事なのに、移植された腸内細菌の種類だけで、太りやすさが変わってしまったのです。

冒頭で紹介した「便移植で太ってしまった人」の話も、この実験結果と重なります。 太り気味のドナーから腸内細菌を受け取ったことが、そのまま肥満体質の”引き継ぎ”につながってしまった可能性があるのです。

これはヒトでの臨床試験でも裏付けられています。 メタボリックシンドロームの患者さんに、やせ型の人の便を移植したところ、移植を受けた人たちの中性脂肪の値が下がり、インスリンの効きやすさも改善したことが報告されています。

短鎖脂肪酸は、実は「肥満を防ぐ味方」でもある

ここまで聞くと、「腸内細菌=太る原因」というイメージを持つかもしれません。 しかし、それは半分正解で、半分間違いです。

腸内細菌が食物繊維を発酵させて作る「短鎖脂肪酸」(酪酸、プロピオン酸、酢酸など)には、実は肥満を防ぐ働きもあることが分かっています。

マウスを使った実験では、酪酸とプロピオン酸と酢酸のすべてが、食事による肥満やインスリンの効きにくさを防ぐ効果を示しました。 特に酪酸とプロピオン酸は、満腹感をもたらすホルモン(GLP-1やPYYと呼ばれるもの)の分泌を促し、食べ過ぎを抑える働きまで持っていたのです。

つまり短鎖脂肪酸は、体という車にとって、「アクセルを緩めてくれる」働きも持っているということです。 腸内細菌は、太らせる方向にも、太りにくくする方向にも働く、まさに諸刃の剣なのです。

肥満の人の腸内細菌には、共通のクセがある

肥満の人とやせ型の人の腸内細菌を比べる研究も、数多く行われています。

肥満の人では、「Firmicutes門」というグループの菌の割合が高く、「Bacteroidetes門」というグループの菌の割合が低い傾向が繰り返し報告されています。 さらに、肥満の人は腸内での発酵活動そのものが活発になっていて、便の中の短鎖脂肪酸の濃度が高くなっているというデータもあります。

これは、同じ量の食べ物からでも、より効率よくエネルギーを取り出せる腸内細菌を持っている、ということかもしれません。 省エネ性能の良すぎる体、と言い換えることもできそうです。

プロバイオティクスや便移植は、肥満治療の切り札になるか

こうした発見をもとに、腸内細菌を積極的にコントロールしようとする研究も進んでいます。

マウスの実験では、乳酸菌とビフィズス菌を組み合わせた3種類のプロバイオティクス菌を、高脂肪食と一緒に12週間与えたところ、体重の増加がやわらぎ、血糖値やインスリンの状態も改善しました。 このとき、太ったマウスの腸内細菌が、やせ型マウスの腸内細菌の構成に近づいていたことも確認されています。

また、抗生物質によって特定の腸内細菌を減らすことで、満腹ホルモンの分泌が増え、血糖値のコントロールが改善したという報告もあります。 腸内細菌を”引き算”することでも、良い効果が得られる場合があるということです。

こうした研究はまだ発展途上ですが、将来的には、腸内細菌をうまく調整することが、肥満治療の新しい選択肢になる可能性を秘めています。

まとめ:太りやすさは、意志の力だけの問題ではないかもしれない

この総説が教えてくれることを、簡単にまとめます。

  • 無菌マウスは、同じ高脂肪食を食べても太りにくい
  • 肥満の人・マウスの腸内細菌を移植すると、太りやすさまで一緒に”移る”ことがある
  • 一方で、短鎖脂肪酸のように、腸内細菌が作る物質には肥満を防ぐ働きもある
  • 肥満の人の腸内細菌には、エネルギーを効率よく取り出す共通のクセがある傾向がある
  • プロバイオティクスや便移植など、腸内細菌をコントロールする治療法の研究が進みつつある

「太りやすいのは、自分の意志が弱いせいだ」と、自分を責めてしまう人も多いかもしれません。 しかし、この研究が示しているのは、体質としての太りやすさの一部が、目に見えない腸内細菌の働きによって決まっている可能性がある、ということです。

これはヒトだけの問題ではありません。 飼料の効率や健康的な体づくりが重要な養豚・酪農の現場や、体重管理がそのまま能力に直結するJRA出走馬の世界、そして愛犬・愛猫の肥満に悩むペットの飼い主にとっても、腸内細菌という視点は、これからますます欠かせないものになっていくはずです。


出典:Parekh PJ, Balart LA, Johnson DA. “The Influence of the Gut Microbiome on Obesity, Metabolic Syndrome and Gastrointestinal Disease.” Clin Transl Gastroenterol. 2015;6:e91.