腸内細菌と精神的回復力(レジリエンス)
近年,精神医学や神経科学の分野ではレジリエンスをめぐる研究が盛んになりつつあります。レジリエンスとは, “外力によるストレスを跳ね返す力”として定義され,ストレス耐性と同義です。従来の病人の弱点や欠如している負の側面に力点を置くのではなく,発症の誘因となる出来事,環境,ひいては病気そのものに抗し,跳ね返し,克服する復元力,あるいは回復力を重視,尊重する考え方です。健康になるための要因を解明し,それを強化することでストレスに適切に対処することができるというものです。 このレジリエンスの獲得に影響する発達期の環境要因として、乳幼児期の視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚などのいわゆる“五感”を介した刺激は,ストレスを制御する神経網の発達を促すことによって成長後に遭遇する様々なストレスに対して適切に応答する能力を身につけさせることを意味しています。これら五感の重要性に加えて,最近では内臓感覚が注目されているそうです。腸内細菌はこの内臓感覚の生成や発達に重要な役割を担っている可能性を示唆する知見が集積されつつあります。
【参考文献】須藤信行:脳機能と腸内細菌叢. 腸内細菌学雑誌 31巻1号 2017